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Research Theme

社会的共通資本としての文化芸術:都市経営における文化芸術の役割とその自治

 

文化芸術は人々の心を揺さぶり、社会や地域をつなぐ力を持つ精神的インフラとして、社会的共通資本とみなすことができます。この研究は、文化芸術を資本主義および民主主義社会において持続的かつ有効に実装するための理論的フレームワークと実践的アプローチを模索します。ここでは、行政自治体、文化芸術関係者、市民という三つのセクターが相互に協力し合い、市場原理や一時的な政治的思想に左右されず、共通の目的に向けて連携することで、都市経営における文化芸術の役割と自治の在り方を探ります。

 

文化芸術を社会的共通資本として機能させるためには、まずその価値を明確化し、理論的な枠組みを築いた上で、調査研究や実証実験による効果測定が求められます。また、市民教育や啓蒙活動を通じて文化芸術の意義や非営利的な存在価値を広く伝えることで、社会全体に支えられる基盤を形成します。こうした枠組みの中で、文化政策の整備やアートマネジメント、そしてリベラルアーツ教育の深化が重要な役割を果たします。その際、アーツカウンシルのような独立した専門家組織による評価と、公的資金投与に対する説明責任の強化が、非営利であるがゆえに市場原理から排除されがちな文化芸術を基礎研究的存在として擁護し、その社会的需要を守る上で不可欠な機能を担います。

文化政策

 

文化政策は、文化芸術を社会的共通資本として保持し、都市経営における自治を促すための枠組みを提供します。ここで重視されるのは、公的資金による支援の正当性と透明性を確保することです。アーツカウンシルなどの専門家組織が、独立性を保ちながら文化芸術に対する客観的な評価を行い、市民や納税者に対して説明責任を果たすことで、非営利的な文化芸術活動が「市場で無駄」と見なされることを防ぎます。これにより、社会全体の利益に資する多様な文化芸術表現が保護され、地域固有の文化資源を活かしつつ持続可能な都市発展に寄与します。

 

民主主義社会においては、市民が意思決定過程に参加し、公的支援の方向性を共有できることが重要です。また、広義の意味での文化施設には、公立・民間に限らず、オルタナティブなアートスペースや公共空間など、偶発的に文化芸術が展開される場所も含まれます。これらは単なる拠点ではなく、文化芸術が自治と創造性を育む「場」として機能することで、都市の文化的アイデンティティを強化します。

 

アートマネジメント

 

アートマネジメントは、文化政策で示される理念を実装し、文化芸術の価値を最大限に引き出すための実務的手法を提供します。資金調達、ガバナンスの確立、組織運営などを通じて、行政、文化芸術関係者、市民が協働できる体制を整えます。ここで専門家組織の評価が活用されることで、公的資金投与の根拠が明確化され、非営利的な文化芸術活動が社会的に認知され、支持されます。

 

アートマネジメントが目指すのは、教育プログラムやコミュニティ活動を通じて、文化芸術が市民の日常生活に浸透し、社会的結束と持続可能な都市発展に資することです。また、この分野で活躍する専門人材の育成は不可欠であり、資金調達スキルやプロジェクトマネジメント能力、各種ステークホルダーとの協働経験など、多面的なスキルが求められます。これにより、非営利団体や地域社会が自律的に文化芸術を育む環境が整い、文化芸術は社会的共通資本として深化していきます。

リベラルアーツ教育としての文化芸術

 

文化芸術はリベラルアーツ教育に不可欠な要素であり、批判的思考や創造性、倫理的判断力を養う「学問の土台」として機能します。技術革新が急速に進展し、生成AIが創造力を拡張する現代において、人間固有の感性や公共性、社会的責任感を育む教育の重要性は増大しています。文化芸術を教育に取り入れることで、学生は多様な価値観や歴史的背景に触れ、社会課題を多角的に理解するとともに、自らの役割を問い直し、新たな価値を生み出す力を身につけます。

 

こうした教育的アプローチは、他分野との学際的連携を促進し、持続可能な社会や都市を考える上で欠かせない基盤を提供します。学生は多様性を尊重し、自己のアイデンティティを探究し、公共性の視点を獲得することで、変化の激しい時代に主体的に関わり貢献することができます。

文化芸術を社会的共通資本として捉える意義と実践

 

文化芸術を社会的共通資本として位置づける意義は、単なる娯楽や嗜好の枠を超え、都市や社会の持続可能な発展に寄与する点にあります。文化政策、アートマネジメント、リベラルアーツ教育を三本の柱として、理論的な枠組みと実践的な手法を組み合わせることで、文化芸術は資本主義社会における経済的持続可能性と、民主主義社会における市民参加を両立させ、社会全体のウェルビーイングに貢献し得ます。

 

特にアーツカウンシルなどの専門家組織による評価や、公的支援に対する説明責任の強化は、非営利の文化芸術領域が市場原理の圧力から排除されることなく維持される上で重要な役割を担います。この非営利領域は、直接的な利益追求を目的としないからこそ、商業的・興行的な文化活動や、特定の成果を求めるクライアントワーク的なクリエイティブ領域にとっての基礎研究的存在となり得ます。

 

つまり、非営利の文化芸術が多様で新たなアイデアや表現手法を生み出し、それが後に収益を生み出す文化活動や戦略的創造行為の「土台」となることで、稼ぐ文化そのものを可能にするのです。このような仕組みを通じて守られ、育まれた文化芸術は、市民が主体的に関与することで地域社会と都市のアイデンティティ形成に寄与し、社会的共通資本としての意義を一層深めていくことが期待されます。本研究は、このプロセスを理論的・実践的に明確化し、行政、文化芸術関係者、市民が協働して新たな可能性を切り拓くための基盤を提示することを目指します。

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